ジョナサン・メジャーズの『マガジン・ドリームス』が2025年に米国で発売予定

『Magazine Dreams』は、雑誌の表紙を飾ることを夢見るアマチュアのボディビルダー、キリアン・マドックスがさまざまな葛藤を抱えながらボディビル界での成功を目指す物語。2023年2月のサンダンス映画祭で高い評価を受け、特別審査員賞(クリエイティブ・ビジョン部門)を受賞。一年以上にわたる肉体改造に挑んだメジャースの演技も絶賛され、米Rotten Tomatoesでは82%フレッシュを獲得した。監督は『HOT SUMMER NIGHTS/ホット・サマー・ナイツ』(2018)のイライジャ・バイナム。 当初はサーチライト・ピクチャーズが配給権を購入し、2023年12月に米国公開される予定だったが、2023年3月にメジャースが元交際相手への暴行・ハラスメント容疑で逮捕されたことで劇場公開を撤回。同年12月に有罪判決が出たのち、2024年1月には配給権が返却されていた。 新たな配給会社として手を挙げたBriarcliff Entertainmentは、ドナルド・トランプの伝記映画『アプレンティス:ドナルド・トランプの創り方』の米国配給を手がけることでも話題だ。過去にはリュック・ベッソン監督『DOGMAN ドッグマン』(2023)や、リーアム・ニーソン主演『MEMORY メモリー』などの米国配給も担当している。 CEOのトム・オーテンバーグ氏は、ライオンズゲートの映画部門を統括し、Open Road Filmを創設したのち、同社を離れてBriarcliff Entertainmentを設立。『Magazine Dreams』の配給権獲得にあたり、以下のコメントを発表した。 「『Magazine Dreams』は、野心とアイデンティティの認識に挑む強烈な体験です。サンダンス映画祭で大きな反響を呼んだイライジャ(・バイナム監督)の映画を、Briarcliffが引き受け、2025年初旬に全米の大スクリーンで上映できることを楽しみにしています。キリアン・マドックス役、ジョナサン・メジャースのすさまじい演技は、近年の映画史において最も魅力的かつ衝撃的な役柄として記憶されるでしょう。この特別な作品を全米の劇場にお届けできること、クレジットのあとも長らく心に残る物語を観客の皆さんに観ていただけることを光栄に思います。」 共演はヘイリー・ベネット、テイラー・ペイジ、そして4度のミスター・ユニバースに輝くボディビル界のレジェンド、マイク・オハーン。プロデューサーには『ナイトクローラー』(2014)ぶりにオーテンバーグ氏との再タッグとなったダン・ギルロイのほか、ジェニファー・フォックス、ジェフリー・ソロス、サイモン・ホースマン。なお、製作総指揮にはメジャースも名を連ねている。 映画『Magazine Dreams(原題)』は2025年初旬の米国公開予定。日本を含む海外配給権の行方も気になるところだ。

『イカゲーム2』ファン・ジュノ役続投で注目度アップ ウィ・ハジュンの“ギャップ萌え”の妙

 2021年9月に配信され、瞬く間に世界1億4200万世帯が視聴し、Netflix史上最大のヒットシリーズとして君臨し続けている『イカゲーム』。膨大な借金や深刻なトラブルによって人生を諦めかけた者たちが、一発逆転しようと高額賞金を懸けて“負けたら即死する”ゲームに巻き込まれていく人生の悲哀を描く。2024年12月にシーズン2が配信され、現在、また世界中で注目を集めている同作にシーズン1から続投しているのが、刑事ファン・ジュノ役のウィ・ハジュンだ。  ジュノは、失踪した兄ファン・イノ(イ・ビョンホン)を追ってゲームに潜入するが、思いがけない事態に襲われる。シーズン1では、ゲームの運営側に崖に追い詰められ、マスクを取ったフロントマンが実は兄イノだったと判明。「なぜ」という言葉を残し、愕然とした表情のまま、兄から銃で撃たれて崖の下へ転落。その安否は不明だったが、シーズン2で生き延びた姿を見せ、主人公ソン・ギフン(イ・ジョンジェ)が“めんこ男”ことスカウトマン(コン・ユ)と対峙する場所を突き止め、真実を解明するためギフンに協力。新たな展開を見せるのだった(個人的には大暴れするコン・ユにもぜひ注目してほしい)。  ウィ・ハジュンの世界的知名度を一気に高めた『イカゲーム』について、「シーズン1に続きシーズン2に出演するということだけでも嬉しい」「シーズン3ではさらにダイナミックに描かれそうだ。期待していただければ幸いだ」(※)と話す彼だが、日本では2024年にファンクラブが開設され、初のファンミーティングも実施と、同作のシーズン3とともにさらに日本での注目度が高まることは間違いないだろう。  『イカゲーム』のように、キレのいいアクションを繰り出す硬派な役柄がとてもよく似合っているウィ・ハジュン。それは鍛え上げられた肉体で立ち回る俊敏さ、素朴な顔立ちだからこそのリアルさ、演技に対する貪欲さといった数々のファクターが彼の存在を際立たせている。そんなウィ・ハジュンのこれまでを少し振り返ってみたいと思う。  1991年8月5日、韓国南端の小さな島で生まれたウィ・ハジュンは小さな頃から体を動かすことが好きで、高校生になるとダンスにもハマり、アイドルを目指すようになる。両親を説得してソウルの高校へ転校するも、アイドルのオーディションに落ち、その後大学で演劇を学びながら俳優のオーディションを受けるも落選。島育ちの彼にとって、まず標準語を話すことに苦労したそうだが、持ち前のハングリー精神で困難を克服していった。  俳優として本格的なデビュー作となったのは、チャイナタウンの闇社会に生きる人々を描いたクライムサスペンス『コインロッカーの女』(2015年)。闇金業を営む“母さん”(キム・ヘス)の下で働く組織の一員ウ・ゴン(オム・テグ)の少年時代を演じていたウィ・ハジュンが印象的深い。ちなみに同作で、キム・ゴウン演じるコインロッカーに捨てられていたイリョンの子ども時代役のキム・スアン(コン・ユの子ども役を演じた『新感染 ファイナル・エクスプレス』などでも活躍)も秀逸だった。  その後もいくつかのドラマや映画に出演するも芽が出ない時期が続いたウィ・ハジュンにとって、ターニングポイントとなったのは2018年。初の主演映画となったPOVホラー『コンジアム』が公開され、韓国で大ヒット。世界7大心霊スポットのコンジアム精神病院に潜入し、恐怖動画を生配信する「ホラータイムズ」のリーダー・ハジュン役を演じ、第39回青龍映画賞新人男優賞にノミネートされた。視覚的にも、音響的にも、とにかく恐怖心を煽る同作には、最近『イカゲーム』シーズン2でも共演したパク・ソンフンも「ホラータイムズ」のメンバーとして出演している。

朝ドラ『おむすび』第85話、歩(仲里依紗)が孝雄(緒形直人)の新たな旅立ちを見送る

 毎週月曜日から金曜日まで放送されているNHK連続テレビ小説『おむすび』(土曜日は1週間の振り返り)。1月31日放送の第85話では、歩(仲里依紗)が孝雄(緒形直人)の新たな旅立ちを見送る。  商店街の面々が孝雄が土地を売ると知って驚いた第84話。  第85話では、さくら通り商店街では、SNSでインパクトのある発信をしたおかげで新たな客がやって来て、店主たちが活気づく。そんな折、聖人(北村有起哉)の理容店に翔也(佐野勇斗)が来て、聖人の仕事ぶりに関心していると、通りで佐久間美佐江(キムラ緑子)が敵視しているショッピングセンターの開発担当・高沢(加藤虎之介)とにらみ合っているという噂が飛び込んできて……。一方、歩は孝雄の新たな旅立ちを見送る。 ■放送情報連続テレビ小説『おむすび』NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00〜8:15放送/毎週月曜〜金曜12:45〜13:00再放送BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜8:15〜9:30再放送BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送出演:橋本環奈、仲里依紗、北村有起哉、麻生久美子、佐野勇斗、藤原紀香、三宅弘城、萩原利久、緒形直人、松井玲奈、平祐奈語り:リリー・フランキー主題歌:B’z「イルミネーション」脚本:根本ノンジ制作統括:宇佐川隆史、真鍋斎プロデューサー:管原浩写真提供=NHK

『君の忘れ方』が描いた悲しみと痛みの先にある希望 いつか来る大切な人との別れのために

 恋人・美紀(西野七瀬)との思い出が詰まった結婚式用の共有フォルダをしばし眺めていた主人公・昴(坂東龍汰)は、その中からよく撮れた1枚の2ショット写真を選択する。そして自分が写っている部分をトリミングし、背景を消す。彼女の笑顔だけが残る。それを印刷する。結婚式で使われるはずだった写真が遺影になるという、胸を衝かれるような悲しい描写から、本作は始まる。それはどこか、その後の彼の心の中を示しているようにも思う。まるで、彼の世界から彼女が消えたというより、彼の世界に彼女しかいなくなってしまったかのような光景。映画『君の忘れ方』は、大切な人を失ってしまった人々が抱える悲しみと痛み、その先の希望を、丁寧に描いていた。  1月17日から公開された映画『君の忘れ方』は、「決して癒えることのない深い悲しみ=グリーフ」と向き合う人々と、グリーフケアに携わる人々の姿を描いた映画だ。共同脚本の伊藤基晴とともに本作の監督である作道雄が、このテーマに3年以上向き合い、オリジナルの脚本を手掛けた。  結婚式を間近に控えたある日、主人公・昴は、交通事故で恋人・美紀を突然失ってしまう。ラジオの構成作家である彼は、取材を通してカウンセラーの澤田(風間杜夫)と出会うが、美紀を亡くしたばかりの彼は、澤田の言葉を素直に受け止めることができない。母・洋子(南果歩)に促され、帰省した先の故郷・岐阜で出会ったのは、月に1度グリーフケアの会を主宰している牛丸(津田寛治)だ。取材の一貫と偽り、自身の喪失の経験を内に秘めたまま、昴はグリーフケアという概念に接していく。そんな中出会ったのが、彼と同様に最愛の妻を突然亡くした経験を持つが、グリーフケアの会の活動には馴染めず、彼にしか見えない“妻”との会話を楽しむ、一見明るい男性・池内(岡田義徳)だった。  本作は静かに、昴の心の動きに寄り添い続ける。例えば、一緒に過ごしていた部屋の随所に美紀との生活の痕跡が残され、テーブルの上には結婚式で使うはずだった様々なものが途中のまま散らばっていることに目を背けずにはいられない昴の姿。もしくは、ふと電車の窓に映り込んだ美紀の幻影を目の当たりにして、電車内に彼女がいるのではないかと思わず探さずにはいられない姿。あるいは、同じ悲しみを経験した者同士である池内と出会い、自然と閉ざしていた心を開いていく姿。本作が初の映画単独主演であり、ドラマ『ライオンの隠れ家』(TBS系)の好演も記憶に新しい坂東龍汰の卓越した表現力が生むリアリティが、より本作を真に迫ったものにしている。  さらに、そんな彼の前に現れるのが、西野七瀬演じる美紀の幻影だ。池内のアドバイスによって、昴が召喚する形で現れた彼女のまぼろし。彼女との思い出の味である、隠し味に日本酒を入れたカレーを作る度、彼女は彼の元に現れ、微笑んでくれる。でもなぜか言葉を発しないし、彼の思いとは裏腹に気づいたら消えてしまう。生者の想像が生みだした産物のようで、時に生者自身を思わぬ場所に連れて行ってしまう彼女の姿は、昴を無条件に包み込んでくれる温かい存在であるとともに、彼が彼女のことを忘れてしまったら最後、姿形すら保てない、脆弱な存在であることを示してもいて、彼をつかの間幸せにする一方で、どうしようもなく不安にもさせる。

『セキュリティ・チェック』は傑作“120点”映画 ジャウマ・コレット=セラの職人技が光る

 Netflixオリジナル映画『セキュリティ・チェック』はクリスマスにこそ相応しい作品だ。クリスマスの空港を舞台に一見冴えない男が孤軍奮闘するスリラー映画として『ダイ・ハード2』(1990年)以来の傑作だから、というだけではない。エンドロールに突入し、この作品に携わったスタッフ、キャストの名前が流れるのを眺めながらほっと一息ついて「面白かったな……」としみじみ思える。そんな作品だからだ。  警察官になる夢を諦め、ロサンゼルス国際空港の運輸保安官として燻ぶった日々を過ごすイーサン(タロン・エジャトン)。妊娠した恋人ノラ(ソフィア・カーソン)からは「もう一度警察官を目指したら?」と優しく促され、微妙な顔(このタロン・エジャトンの燻ってる男がマジで言われたくないことを言われた時のただ受け流すしかない顔の演技がすさまじく上手い)をするしかない日々を過ごす。  そして迎えたクリスマスイブの日。手荷物のX線検査に配属されたイーサンは突如謎の男に脅迫される。「恋人の命と引き換えに、仲間の荷物を通せ」と。しかも謎の男は脅迫するだけでは飽き足らず、イーサンが如何に情けない男であるかをネチネチと説教してくる。さらには「密輸品のダイヤモンド」と説明された荷物をX線検査に通すとすさまじく危険なものが映っており……。空港の利用客と恋人の命を守るため、イーサンは命を懸けた危険な駆け引きに挑む。  今年のNetflixオリジナル作品は大変なことになっている。去年までのNetflixオリジナル映画の印象は全体的に65~75点くらいの煮え切らない作品が多く、たまに120点級の大傑作を叩き出す、といった感じだった。それが今年は『ロスト・イン・シャドー』に『武道実務官』、『レベル・リッジ』や『セーヌ川の水面の下に』。そして日本からは『シティーハンター』など、世界各国から90~120点くらいの突き抜けた傑作映画が揃い踏みした。 そんな2024年の充実ぶりを象徴するかのように年末を飾るのが、配信されるや否や連日「今日の映画TOP10」の1位に君臨し続け、X(旧Twitter)上でも話題を集めるサスペンススリラー映画『セキュリティ・チェック』だ。  本作の監督を務めるのはジャウマ・コレット=セラ。『フライト・ゲーム』(2014年)や『トレイン・ミッション』(2018年)など限定シチュエーション下でのスリラーを得意とする監督で、なんとなくのイメージで恐縮だが、手堅く65~75点くらいの面白さを安定して叩き出す職人監督という印象だ。  そういう意味では実にNetflixらしい監督と言えるが、煮え切らなさが目立つNetflixオリジナルと違い、狙ってこの点数を叩き出していそうな技術力の高さを伺えるのがジャウマ・コレット=セラの渋いところだ。  というわけで65~75点映画配信サービスのNetflixと65~75点映画職人のジャウマ・コレット=セラが手を組んだ。ジャンル映画としてまったく新しいものを提示してくれた『レベル・リッジ』のジェレミー・ソルニエや死と暴力の総数で我々の度肝を抜いてきた『ロスト・イン・シャドー』のティモ・ジャヤントと違い、まあまず間違いなく65~75点くらいのスリラー映画を撮るのだろうと思っていた。だが、蓋を開けてみたらどうだ。  ジャウム・コレット=セラの職人的技術力の高さが完璧に昇華された大傑作が爆誕した。65~75点映画を期待して観たら90~120点映画を見せつけられた。

興行的にも批評的にも厳しい結果になった“いわくつき作品” 『ボーダーランズ』の真価を検証

 アメリカでの劇場公開から半年遅れで、日本でもついに配信映画のかたちで『ボーダーランズ』がリリースされた。同名の人気ゲーム作品を原作に、辺境の惑星で個性的なキャラクターたちが壮大な謎を解き明かすため、冒険をする姿を描いた一作だ。  しかし、この映画、アメリカで多くの批評家に酷評され、推定1億ドル以上の予算をかけた大作としては興行成績が振るわず、厳しい結果となったという、いわくつきの作品でもある。  だが、これは格好のモデルケースだともいえる。ここでは、本作『ボーダーランズ』の実際の作品の出来と、この厳しい評価や他の作品との興行成績を比較検討しながら、映画界や観客の傾向を浮き彫りにし、ゲーム原作映画が増えていくなかで、どのような作品づくりが求められるのかを考えてみたい。  前提として『ボーダーランズ』は、まずゲーム作品ありきの作品である。せっかく実写化するのだから、映画ならではの魅力を加えるのはもちろんのことだが、それでも、基となったゲームの魅力をすべて捨て去るのでは、そもそも原作を用意した意味もない。このあたりのバランス調整が、人気原作の映画化作品にとっての課題だといえよう。  近年、ゲーム作品をヒットさせた映画は多いが、そこで重要なのは、原作ゲームで印象深い部分を、映画作品で再現できるかという部分だろう。『ソニック・ザ・ムービー』シリーズや、『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』(2023年)、『ファイブ・ナイツ・アット・フレディーズ』(2023年)など、興行的に成功する作品は、必ずしも原作に忠実な内容でなくとも、ゲームをプレイする上での興奮する部分が再現できているという共通点があるように思える。  対して、『アサシン クリード』(2016年)や『トゥームレイダー ファースト・ミッション』(2018年)は、どちらかといえば原作のテイストを守っていながらも、作品の規模に対して興行成績が振るわなかった。作品自体の内容も悪いわけではないが、一方でゲームの魅力を強調してアピールするような場面は希薄だったのかもしれない。  もちろん、ゲーム原作つき映画は、ゲームファンだけのものではない。原作を知らない観客も多く劇場に足を運び、配信映画のサムネイルをクリックすることだろう。とはいえ、ゲームの興奮が反映されているという情報が、人づてだったり、インターネットの上の評判によって多くの人に届くかどうかは、興行面で無視できない効果を生み出すものだ。そういった熱を生み出す仕掛けは、ことにゲーム原作映画の興行にとって、ややもすると脚本や演出、キャストの演技よりも重要な場合があると考えられる。  その観点から本作『ボーダーランズ』を観ると、それほど悪くはないように思える。重要なキャラクター、リリスを、なんとケイト・ブランシェットが演じるというサプライズがあり、一部では年齢の面でイメージが違うと言われながらも、俳優としてビジュアルも演技も難なくこなす、さすがの仕事を見せている。また、他のキャストも原作のイメージに忠実であるだけでなく、それぞれの個性が魅力的に見える。とくにジャック・ブラックが声をあてている、下品なギャグを言いまくるお騒がせロボット、クラップ・トラップの活躍が楽しい。  やや気になるのは、物語のテンポが早く、場面が次々に入れ替わっていくため、登場人物への感情移入が十分でないまま進行しているように感じてしまうことだ。登場人物が自分たちの意志や感情によって行動を起こすというより、あらかじめ決められた段取りに従っているように見えてしまう箇所が少なくないのだ。  そこがむしろ、一般的なゲームのムービーシーンのようであると好意的に解釈することも可能なのかもしれない。ゲーム作品は、プレイヤーが操作するキャラクターにシンクロするので、映画ほどじっくりと感情移入させる必要がない。しかし、本作はあくまで映画作品なのだから、そこを外すのは懸命ではなかったと判断するのが妥当ではあるだろう。

『おむすび』池畑慎之介だから成立したひみこさん 中川わさ美のキャスティング意図も

 NHK連続テレビ小説『おむすび』が現在放送中。平成元年生まれの主人公・米田結(橋本環奈)が、どんなときでも自分らしさを大切にする“ギャル魂”を胸に、栄養士として人の心と未来を結んでいく“平成青春グラフィティ”。  先週(第16週)の放送から神戸を訪れているのが、糸島でスナックを営むひみこ(池畑慎之介)。商店街を盛り上げようとカーニバルを提案し、その後は歩(仲里依紗)とチャンミカ(松井玲奈)の仲違いを解消するために名探偵として活躍。そして第17週では、ひみこの「元祖ギャル」としての過去が明かされた。  いつでも明るく前向きなひみこの人物造形について、制作統括の真鍋斎は「我々の中で、“ギャル”は性別や年齢の垣根を越えて『なんの偏見もなく世の中のことを受け入れていこう』というポジティブさの象徴として描いていますが、ひみこはまさにそういった存在です」と説明する。  「あんたら邪馬台国って知ってる?」と切り出したひみこは、近畿や九州、そして糸島など、「邪馬台国がどこにあったのか」という議論が未だに続いていることを引き合いに、「なんでみんな決めつけたがんのかな。邪馬台国はどこやとか、男はどうやとか、女はどうやとか、年寄とか若者とか。どうでもええやんな、みんな自由やねんから」と私見を語る。  ひみこの由来は卑弥呼にあった!? というまさかの展開に驚かされたが、第17週の演出を担当した盆子原誠は「僕の中には、最初から『邪馬台国の卑弥呼もギャルだったのではないか』という考えがありまして。忌憚(きたん)なく何もかも喋って、ポジティブで人を前向きにさせる女性が日本にはずっといるんだよ、という思いをひみこに込めました」と明かす。  そんなひみこを演じるのは、池畑慎之介。真鍋は「池畑さんとは20年ほど前に大河ドラマでご一緒しましたが、当時からピーター、あるいは池畑慎之介として、2つどころかいくつもの顔をお持ちでした。黒澤映画にもご出演されるほどの俳優さんでありながら、いろいろな仲間とのコミュニケーションも大事にされていらっしゃる。さらには糸島の観光大使をされていたりと、形にとらわれない自由さがある方だと感じていました」と印象を述べ、「もともとスナックの店主としてひみこというキャラクターを作るつもりではいましたが、池畑さんに演じていただけたことで、さらに我々のイマジネーションが広がりました」と感謝した。

「インサイド・ヘッド2」ピクサー史上最高のヒット “楽しくて気づきを与える”傑作が 商業的ヒットに繋がったワケは?【ハリウッドコラムvol.355】

ゴールデングローブ賞を運営するゴールデングローブ協会に所属する、米ロサンゼルス在住のフィルムメイカー/映画ジャーナリストの小西未来氏が、ハリウッドの最新情報をお届けします。 ピクサー最新作「インサイド・ヘッド2」の世界総興収が、「インクレディブル・ファミリー」(12億4300万ドル)を超えて、ピクサー史上最高のヒットとなった。 「トイ・ストーリー」や「ファインディング・ニモ」「Mr.インクレディブル」など数々のヒットを生みだしてきた同社にとっても、快挙だ。また、アニメ映画としても歴代1位の「アナと雪の女王2」(14億5300万ドル)に迫っており、記録更新も視野に入ってきた。 ※編集部註:7月25日追記/世界興収が14億6200万ドル(2245億円)を突破し、アニメ映画史上世界No.1の快挙を達成(数字は7月25日付box office mojo調べ/1ドル153円) 話題作を連発していたかつてのピクサーを知っている人にとってみれば、当然の結果と思われるかもしれないが、近年の同社は迷走しているようにみえた。同じディズニー傘下のマーベルと同様、かつての輝きが失われてしまったとの悲観論が広まっていた。 実際、チーフ・クリエイティブ・オフィサーを務めるピート・ドクター監督も、公開前の米誌タイムの取材で、「本作が失敗したら、抜本的にビジネスモデルを見直さなければならないだろう」と、語っていた。相当な覚悟のもと作られていたと想像できる。 「インサイド・ヘッド2」は、人間が抱く「感情」たちの世界を描いた傑作「インサイド・ヘッド」の続編だ。女の子の頭のなかを感情たちの視点から描くという独創的なアイデアはそのままに、前作では11歳だったヒロインが13歳になっている。 思春期を迎え、感情の乱れや自我の形成に悩むヒロインの頭のなかに、新たな感情たちが生まれる、という設定になっている。不安や混乱に支配されがちな思春期を題材に、 イマジネーションとハートをたっぷり詰め込んだ、ピクサーらしい野心作だ。 「インサイド・ヘッド」シリーズが傑出しているのは、楽しいひとときを提供することを目指したエンタメ作品だらけのなかで、教育的側面が備わっていることだ。 たとえば前作を見れば、「人には悲しみの感情も必要だ」ということがわかるし、今回は「ある程度の年齢を過ぎると、心配に感情を支配されがちになる」ということが理解出来る。 娯楽と教育といえばつい対立する存在と考えがちだが、本作では娯楽のなかに教育的要素がきちんと内包されている。しかも、まったく説教臭くなく、子供にも容易に理解出来るようになっている。 楽しくて、気づきを与えてくれる。まさに希有な作品と言えよう。 本作が傑作であるのは間違いない。だが、良作が必ずしも、商業的なヒットに繋がるとは限らない。どうしてここまでのヒットになったのだろうか? まずは、昨年のダブルストライキがある。長期にわたったストライキの影響で、「ミッション:インポッシブル8」をはじめとする大作が公開延期となり、2024年夏のスケジュールがガラガラになってしまった。 AP通信によると、今夏の公開本数は32本で前年と同じだが、コロナ前の40本には及んでいない。結果的に、「インサイド・ヘッド2」の競合作が少なくなり、スクリーンを独占する形になったのだ。 もうひとつ重要なのは、シアトリカルウィンドウの確保だ。パンデミックで映画館が長期休業を余儀なくされたことで、2020年の「2分の1の魔法」の劇場公開は途中で打ち切られた。その後のピクサー作品3本(「ソウルフル・ワールド」「あの夏のルカ」「私ときどきレッサーパンダ」)はすべてストリーミングサービスのディズニープラスで直接配信された。 2022年の「バズ・ライトイヤー」をきっかけに、ディズニーはピクサー作品の劇場公開を再開させたものの、世界総興収は2億2600万ドルと撃沈。作品の評価が芳しくなかったことに加えて、コロナ禍に高品質のアニメ映画を家庭視聴することに慣れてしまったことが一因としてあげられていた。 そして、2023年公開の「マイ・エレメント」は、世界総興収が5億ドル近くまで回復。45日間のシアトリカルウィンドウを設けたことが、観客を映画館に向かわせることに一定の効果があったようだ。 「インサイド・ヘッド2」において、ディズニーはシアトリカルウィンドウを100日間に拡大するといっている。つまり、劇場で独占公開される期間を伸ばすにしたがって、観客が戻ってきているのだ。 会心の作品に、ライバル不足とシアトリカルウィンドウの確保があいまって、通算28作目となる「インサイド・ヘッド2」はピクサー史上ナンバーワンのヒットとなった。 次作はオリジナル作品の「エリオ(原題)」。新たな黄金時代のはじまりを期待したい。

「デッドプール&ウルヴァリン」 R指定映画として史上最高のロケットスタート

マーベル・スタジオの最新作「デッドプール&ウルヴァリン」が、R指定映画として歴代最高の北米オープニング興収を記録した。 同作は、北米市場で2億500万ドル(約319億円)、世界累計興収で4億3800万ドル(約681億円)という驚異的な数字を叩き出した。これは、R指定映画としては過去最高のオープニング興収となる。前作「デッドプール」(2016年)の1億3200万ドル、「デッドプール2」(2018年)の1億2500万ドルという記録を大きく塗り替えた形だ。 この驚異的な成功について、主演のライアン・レイノルズは米ハリウッド・レポーター誌に対し、「確かにR指定だが、コミック映画ファンでなくても、誰もが楽しめる笑いとアクション、そして心を持った映画を作ろうとしたんだ」と、作品の幅広い訴求力を強調した。 実際、興行統計によると、観客の11%が17歳未満で、通常のR指定映画の約2倍の割合となっている。また、18歳から55歳以上まで、幅広い年齢層に支持されていることも明らかになった。 実際、興行統計によると、観客の11%が17歳未満で、通常のR指定映画の約2倍の割合となっている。また、18歳から55歳以上まで、幅広い年齢層に支持されていることも明らかになった。レイノルズは製作過程について、「3年間にわたって、執筆、製作、演技、編集、マーケティングのあらゆる形で『デッドプール&ウルヴァリン』に携わってきた。ハードワークというより、むしろ偏執的と言えるかもしれない」と述べ、作品への熱意を語った。 さらに、ディズニーによる20世紀フォックス買収、パンデミック、ストライキなど、様々な困難を乗り越えての公開となった。レイノルズは「親友のショーン・レビ(監督)とヒュー・ジャックマンと一緒に映画を作る特権と名誉を、決して忘れることはない」と、共演者や監督への感謝を述べている。 「デッドプール&ウルヴァリン」の成功は、R指定作品でも適切な戦略とファンの支持があれば大ヒットが可能であることを示した。 この大ヒットは、近年やや低迷気味だったマーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)に新たな活力をもたらす好スタートとなった。レイノルズは「マーベル/ディズニーのプロモーションの手腕を目の当たりにすることは、決して忘れられない学びの経験だった」と、スタジオの宣伝力も称賛している。 R指定という制約を逆手に取り、幅広い観客層に訴求した「デッドプール&ウルヴァリン」の成功は、今後のR指定超大作の製作や、MCUの展開に大きな影響を与えることが予想される。業界関係者たちは、この新たな潮流がハリウッドにどのような変化をもたらすか、注目を寄せている。

「スター・ウォーズ」ドラマ「キャシアン・アンドー」の制作費が本家越え

ディズニープラスが野心的に展開する「スター・ウォーズ」ドラマシリーズの最新作「キャシアン・アンドー」が、驚異的な制作規模で注目を集めている。米フォーブスの報道によると、2シーズン合計で6億4500万ドル(約967億円)という空前の制作費が投じられたという。 特筆すべきは、シーズン2の制作費だけでも2億9090万ドル(約436億円)に達し、シリーズの集大成として2019年に公開された映画「スター・ウォーズ スカイウォーカーの夜明け」の制作費2億7500万ドル(約412億円)をも上回る規模となったことだ。 この巨額投資の背景には、2023年のハリウッドを揺るがした脚本家組合(WGA)と俳優組合(SAG-AFTRA)のストライキが影響している。 企画・製作総指揮のトニー・ギルロイが2023年5月に執筆業務を停止し、撮影も一時中断を余儀なくされたが、2024年1月に再開。2月には予定通りの撮影完了にこぎつけた。なお、イギリスでのロケーション撮影により、1億2900万ドル(約193億円)の税額控除も適用されている。 本作は、大ヒット作「ローグ・ワン」の前日譚として、帝国軍の圧政下で反乱軍のヒーローへと成長していくキャシアン・アンドーの知られざる物語を描く。ギルロイによれば、シーズン2の最終回は「ローグ・ワン」の冒頭からわずか3、4日前の出来事まで描かれ、両作品が緊密につながる構成となっている。 全12話で展開されるシーズン2は、2025年4月22日より世界同時配信開始となる。映画をも凌駕する制作費と、丹念な物語作りが織りなす新たな「スター・ウォーズ」の世界に、早くも期待が高まっている。